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2018.02.23

乾物「アースバウンド」と生鮮「ライヴ・イン・シカゴ2017」両極端ライヴ盤聴き比べ

まずは、昨年末に発売になったばかりの『アースバウンド~40周年記念エディション』。去年の段階で発売から45年経っていたのに40周年記念とは如何なものか?という突っ込みはさておき、長きにわたりクリムゾン最大の問題作、口の悪い人々からは粗大ゴミと蔑まれたこのライヴ、綿々と続いてきた40周年記念エディションにさすがに加わらないだろうという大方の予想を覆し、アルバム『アイランズ』期のクリムゾンにスポットを当てたボックス・セット『セーラーズ・テールズ』と共に発表の運びとなった。

 1971年末には実質崩壊していたアイランズ・クリムゾンが、既に契約済だったアメリカ・ツアーを行うため渋々行ったツアーということもファンの知るところであったため、受ける印象はネガティヴ。しかも音源はPAエンジニアが操作するサウンドボードに繋がれたカセット・レコーダー録音、チープかつローファイなものであったため、そのサウンドはかなりドライ。生の迫力というより乾物系ライヴであった。

 オリジナルの収録曲にも問題があったと思う。「スキッツォイド・マン」は外せないだろうということで収録されてはいるが、この時期の最新アルバムだった『アイランズ』からでさえ「セーラーズ・テール」1曲のみ。後はシングル「キャット・フード」のB面だった「グルーン」、後の2曲はこのツアー中の演奏されたインプロヴィゼーションを切り出した楽曲。確かに当時、アルバム未収録の新曲ではあったが、これ、クリムゾン?と誰もが思う、プログレというかジャズ・ファンク系のジャム・ナンバー。これではこの時期のクリムゾンはファンがこうあってほしいと思うクリムゾンではなかったと誰もが思うのは当然だろう。しかも音は乾物。鰹節をそのまましゃぶらされているみたいな感じだった。

 ‘90年代以降、DGMが始めたコレクターズ・クラブの発掘音源によって熱心なファンは、『アースバウンド』はどちらかというとこのツアーの特異な部分を切り出したもので、このアイランズ期のクリムゾンもキング・クリムゾンの本質は揺るがなかったのだ、というのを理解したのだが、世間一般に染み付いたイメージを払拭するには至らず、アイランズ・クリムゾンは不人気クリムゾンのままだった。もともと、オフィシャルでブートレグ出しちゃおうという部飛んだ企画で、この時代のテクノロジーではこの乾物ライヴ・サウンドでも十分健闘していたと思うのだが、問題はファンが美味しいと感じる旨み成分をごっそり削ぎ落とし、エグ味の方をメインに打ち出しちゃったことにあったと思う。

 で、今回の『アースバウンド~40周年記念エディション』。まさに汚名挽回のパッケージになっていると思う。CDには3曲、DVD(オーディオ)にはその3曲さらに4曲のボーナス・トラックが追加され、これが「冷たい街の情景」、「フォーメンテラ・レディ」、「サーカス」、「レディース・オブ・ザ・ロード」、「レターズ」とこの時代のラインナップならでは、どうせならこっちを聴きたかったという曲ばかり。オリジナル『アースバウンド』ではごっそり削ぎ落とされた旨み成分が見事復活を果たしたパッケージとなった。もうひとつのセールス・ポイントはコレクターズ・クラブCDの中でも人気の高かった、1972年3月12日デンヴァー、サミット・スタジオで行った放送用スタジオ・ライヴの新規ミックス版だ。1972年ツアーの中で唯一のマルチトラック・レコーディングだったこのサミット・スタジオでのライヴは先に発売されていた旧ヴァージョンから大幅にグレードアップ! ステレオ・ソースの他、4chサラウンド・ミックスも収録(これがかなり良い出来!)。

 『アースバウンド』ねぇ、音悪いし、あんまり面白くないからなぁ、と多くの人が思っているだろうが、このパッケージを聴くと印象はガラリと変わると思う。オリジナル『アースバウンド』ではエフェクトがきつくかけられていたり、シャウト、がなりばかりで、ヴォーカリストとしてはどうだったのだろうという雰囲気だったボズ・バレルは存在感あるヴォーカルを披露しているし、『アイランズ』の静謐な美しさはこの人あってのものだったと再認識することは必至だ。ファンが聴きたい美味しいところをぎっしり詰め込んだ優れものの改訂版なのだ。

 45年ぶりに刷新された『アースバウンド~40周年記念エディション』に続き現行最新ライヴとして海外で2017年に発表になり、国内盤が3月21日に発売されたばかりの『ライヴ・イン・シカゴ2017』。『アースバウンド~40周年記念エディション』が乾物系ライヴの逸品とすれば、こちらは鮮度最高、音質面最高レベルの生鮮系ライヴ。

 海外ではこの『ライヴ・イン・シカゴ2017』が先に発売になり、日本では既に発売済みの『ライヴ・イン・ウィーン』(2016年ライヴ。国内盤のみ2015年ジャパン・ツアー全10公演から1曲ずつピックアップしたスペシャル・ライヴ・アルバム『ジャパン・ツアー・オーディオ・ダイアリー』付き)が日本で『ライヴ・イン・シカゴ2017』が発売になるタイミングで海外発売となる。

 日本と海外で両ライヴ・アルバムの発売順が逆になった背景には、ロバート・フリップのわがままがあった。当初、全世界同時で『ライヴ・イン・ウィーン』を発売することになっており、CDマスター、アートワークもすべて用意されたのだが、直前になってフリップがこの『ライヴ・イン・シカゴ2017』のラフ・ミックスを聴いて、これこそが理想のキング・クリムゾンということで、いきなり発売順を変えると言いだしたことで生じた混乱があった。

 フリップが『ライヴ・イン・シカゴ2017』を先出しすると言いだした時点で日本では『ライヴ・イン・ウィーン』の受注がまさに始まろうとしていたため、今更変更不可となり、打開策として二つのライヴ・アルバムの発売順を日本と海外で逆転させることになったのである。

 2016年ツアーでは休養のため離脱していたビル・リーフリン(2017年秋のツアーでは再び休養し代わりのメンバーが代役を務めたが2018年ツアーには再び復帰予定になっている)が復帰し、過去最大の8人編成となったクリムゾンをロバート・フリップは歴代ラインナップにおける決定的フォーメーションNo.4と高く評価している。ちなみにNo.1は1969年デビュー時、No.2は1974年ニューヨーク・セントラル・パークにおける太陽と戦慄クリムゾン最後のパフォーマンスとアルバム『レッド』のレコーディング、No.3が1981年ラインナップだそうだ。

 2014年に復活した現行クリムゾンは過去のツアーの反省を踏まえ、ツアー期間を短期集中型にし、ツアーが長期化することで生じる人間関係の悪化を回避、徹底的にディカッションを重ね、音楽的精度を高めるための集中したリハーサル・システムを構築。ロバート・フリップは過去に何度も理想のキング・クリムゾンを作り上げようとしてきたが、メンバー間のエゴのぶつかり合い、ビジネス面の不備により志半ばにして挫折してきたが、このクリムゾンはついにあきらめない理想のラインナップとなった。これまでの経験を踏まえ、純粋にクリムゾン・サウンドを追求する最強のユニットを創り上げたのだ。

 ベテラン中のベテラン揃いのメンバーで平均年齢も高いこともあり、終わりが徒然訪れることもあるかもしれないが、だが、フリップ本人が聴いた瞬間に最高のライヴ・パフォーマンスと感じた『ライヴ・イン・シカゴ2017』。このライヴは現状に於いての最良のものと彼は表しているが最高到達点ではないという。そればかりか、ここが新たな出発点だとフリップは認識しているようだ。

 『ラディカル・アクション』は素晴らしい作品だったし、『ライヴ・イン・ウィーン』はそれを越えて行こうとする気概に満ちた野心的なライヴだった。そしてたどり着いた限りなく純度の高いクリムゾン・サウンドを放射する『ライヴ・イン・シカゴ2017』。これだけ完成度の高いアルバムがオフィシャル・ブートレグだというのだから、この人たちは一体何をかんがえているのだろう?

 『アースバウンド~40周年記念エディション』と『ライヴ・イン・シカゴ2017』。最古と最新のオフィシャル・ブートレグ。乾物と生鮮。両極端の2作品、どちらも興味が尽きない内容を持っている。

 

文:深民淳

 

「ライヴ・イン・シカゴ2017」発売中
品番:IECP-20264〜5
価格:¥4,000+税
仕様:2HQCD、見開き紙ジャケット、日本語解説付き
曲目はこちらhttp://www2.king-crimson.jp/news/20171228283/